最終更新日 2025年5月19日
店で飲酒することが苦手な私にとって、個室居酒屋は有難い存在でした。
一般的な居酒屋のように賑やかな雰囲気のなかでお酒とおつまみを堪能することも好きといえば好きですが、酔った勢いで話しかけられることが多く、それが嫌で避けていました。
けれどアンドモワのような個室居酒屋ならゆったりと気楽にくつろげるため、仕事帰りの一杯や落ち着いて飲みたい時によく利用していました。
その個室居酒屋ですら避けるようになったのは一年前の秋のことです。
私は実家で生活していますが、その実家に様々な事情で十年以上地元から離れていた姉が帰ってきました。
帰ってきたばかりの姉は仕事から解放されたためか、一か月ほど何もせずに生活していた時期がありました。
そんなある日、姉は「一緒に外で飲みたい」とせがんできたのです。
正直なところ、すっかり変わってしまった姉に対して良い印象がなかった私でしたが、それを隠して了承しました。
理由としては断る言葉が見つからなかったためでもありますが、渋って気を悪くする姉に対応するのが面倒だったからです。
利己的な子供よりも姉は我儘になっていました。
とにかく外で飲むことを約束した私たちは待ち合わせ時間を決め、現地で集合することにしました。
何のトラブルもなく、姉と私は合流して私がよく利用していた個人居酒屋に入ります。
その店にしたのは姉が「お前が飲んでいる居酒屋に行きたい」と頼んだためでした。
その居酒屋を好んでいたのは個室があるだけでなく、素朴なナチュラルな雰囲気と和食が中心のメニューだったからです。
私が生活している周辺の居酒屋は洋食や多国籍なメニューを取り扱っているところが多いため、和食が好きな私にとってその居酒屋はお気に入りの場所になりました。
運よく少数でくつろげる個室に入ることができた私たちはさっそくメニューを開き、雑談を交えながら料理を選んでいました。
本来なら楽しくなる時間のはずでしたが、私は顔をしかめるのを我慢しながら姉との会話に合わせていました。
その時私が我慢していたもの、それは臭いです。
対面する姉からただよう香りが臭かったからです。
一人暮らしが長かった姉は香水のような匂いを好むようになったらしく、高級な香水をつけるだけでは飽き足らず、ボディソープやシャンプーなどもアロマのように香るものを使用することを姉が帰ってきて初めて知りました。
その重なった匂いは生ゴミのように臭く、姉がいた場所には残り香がただようほど強いものでした。
分かっていたことですが、実家に帰ってきてから同室を避けていた私にとって耐えがたいことでした。
けれどこれから共同生活をする以上、この程度我慢しなくてはならない。
そう自分に言い聞かせながら姉の臭いでせっかくの味も台無しになってしまった料理と酒を口にしていました。
そんなことを知らない姉は「また飲みに行こうね」と言いますが二度目は御免です。
ただでさえ強烈なこの出来事のせいで個人居酒屋に行く足は遠ざかっているのです。
もしも姉を楽しく飲む時があるとするなら、姉の趣味が変わった時だけです。
最終更新日:2016年10月17日